貴志雄介「新世界より」を読んで
貴志祐介「新世界より」を読んで
あらすじ
舞台は1000年後の日本のとある町神栖66町、周囲を八丁標で囲われたこの街には3000人ほどの超能力を持った人々が暮らしていた。その町に生まれた主人公「早希」は5人の友人とともに神栖66町の歴史の成り立ちと町が抱える闇を知ってしまう。知ってはいけないものを知ってしまった5人を中心にかりそめの平和が崩れ始める。
見どころ
一番の見どころはやはり細やかに考え抜かれた舞台設定にあるでしょう。もし一部の人間が超能力を持ってしまったら、という疑問から始まるこの1000年の歴史には誰しもが納得するようなリアルさがあふれ出ています。
また、無数の触手を持つミノシロ、人間並みの知能を持ったバケネズミ、牛に寄生するフクロウシなど特徴的な生物が細かに描かれており独特の世界観を演出しています。
さらに、秘密を知ってしまった早希達5人のそれぞれのその後の選択や、彼女らに対する大人たちの対応、また自分たちの世の中を夢見るバケネズミたちの思惑、だれもが自分たちの正義、大義を貫き、互いに衝突する様は読者を悩ませること間違いなしです。
感想
終わり方が非常に良かった。
様々な悲劇を潜り抜け早希は成長し、管理される側から、村人を管理する側へと回った。その後、早希はいくつかの制度の改革を行ったが悲劇を生んだバケネズミ、不浄猫、悪鬼や業魔の問題などは依然と残っており有効な対策が見つけられずにいる状態で物語は幕を閉じた。特に早希の親友を殺し、彼女自身もあれだけの嫌悪感を持っていた不浄猫を残すというのはもどかしいものを感じた。どうすれば彼女ら人類は救われるのか、読み終わった後もしばらく考えさせられる作品だった。