奥田英朗「イン・ザ・プール」を読んで
奥田英朗「イン・ザ・プール」を読んで
あらすじ
異常な精神科医が重度の精神病患者を診断するとなぜか病状が回復するという癖の強い短編集。
見どころ
この本の面白いところは精神科医である伊良部の異常性にあるだろう。読者からしたら診療に訪れる精神病患者よりも圧倒的に伊良部のほうが異常に感じるのであり、実際その通りであろう。ただ結果として伊良部の自己中心的な行動に巻き込まれた患者は疾患を改善することができる。
なぜ精神病患者は病状が回復するのか?
これで本当に良かったのか?
感想
なぜ精神病患者は病状が回復するのか?
伊良部は患者に対して助言を行うが明らかに的外れであるならまだしも、病状を促進させるものが多い。伊良部が反面教師的役割を担っていると考えるにはやや短絡的である。
本作に出てくる精神病患者は一見バラバラの疾患を抱えているように見えるが、どの患者においても「極度に何かに固執している」という共通点があると感じる。
例えば、友好関係、他人からの評価、ほかのやつとは違うという優越感、といくつか書き出してみたがそんなこともないかもしれない。この理論ではたばこ依存症患者や、極度の心配性患者についてはいまいち合致するものがないからである。
それぞれの患者が改善に至った原因については理解できる。なぜならそれぞれの精神病患者が自分の疾患が改善した事件について理解しているからである。ただこの作品の不可解さはその事件を起こすまでの伊良部の行動である。彼の行動の原理は自分が快楽を得るための行動であり患者のためではないことは明らかではあるが断言するにはその結果を見れば厳しいところである。
時には自己中心的に生きることが精神の安定につながるのだろう。そんな風に感じた。
終わり良ければすべて良し